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京都地方裁判所 昭和58年(行ウ)9号 判決

京都市南区唐橋芦辺町一四番地

原告

滝井薫

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

小川達雄

京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地

被告

下京税務署長

黒沢義治

右指定代理人

竹中邦夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告の昭和五二年分ないし同五四年分の所得税について、昭和五六年三月六日付けでした各更正処分(以下本件各更正という。)のうち、昭和五二年分につき所得金額一〇八万八四五〇円、同五三年分につき所得金額一二二万六八〇〇円、同五四年分につき所得金額一二六万九八〇〇円をそれぞれ超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件更正の経緯等

原告は、プロパンガスを主とする燃料小売業を営むいわゆる白色申告者であるが、昭和五二年ないし同五四年(以下、本件係争各年という。)分の所得税について原告のした確定申告、これに対する被告の各更正及び各過少申告加算税決定処分、原告の異議申立とこれに対する被告の決定、並びに原告の審査請求と国税不服審判所長のした審査裁決の経緯は、別表第一記載のとおりである。

2  本件各更正の違法事由

(一) 被告は、本件の税務調査において、理由の開示を行わず、違法調査に基づき本件各更正を行つたものである。

(二) 被告がした本件各更正のうち、各確定申告にかかる所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから、違法である。

よつて、本件各更正の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項の主張は争う。

三  被告の主張

(主位的主張)

1 課税処分の経過について

被告は、原告の昭和五二年分ないし同五四年分の所得税調査のため、部下職員を原告の事業所に臨場させた。同職員は原告に対し、各年分の所得金額の計算の基礎となるべき帳簿書類等の提示を求めたが、原告は事業に関する帳簿書類、請求書及び領収証等の原始記録を一切提示せず、また、取引内容等の事業内容に対する質問にも具体的な答弁を行わず、同職員の調査に全く協力しなかつた。

そこで、被告は、やむを得ず、原告の取引先等を調査し、その結果得た資料に基づき本件係争各年分の事業所得金額を算定したところ、各年分とも原告の申告額を上回つたので、本件各更正処分をしたものである。

2 事業所得金額

被告が主張する原告の係争各年分の事業所得金額は、

昭和五二年分 二五七万三九六二円

昭和五三年分 二三九万八六七五円

昭和五四年分 三四七万〇六八四円

であり、その明細は別表第二のとおりである。

(一) 売上(収入)金額

原告の係争各年分の売上金額は、後記(二)の原告の各年分の売上原価を原告と同種の事業を営む同業者(以下「同業者」という。)四名の当該各年分の売上原価率(売上原価の売上金額に対する割合)の平均値(以下「同業者原価率」という。)で除して算定したものでその計算は別表第三のとおりである。

(二) 売上原価

原告の係争各年分の仕入金額は、

昭和五二年分 六五六万五三八〇円

昭和五三年分 五六三万五五四二円

昭和五四年分 八一四万〇七三二円

であり、その仕入金額の明細は別表第四のとおりである。

原告は、係争各年分については、たな卸を実施しておらず、また、原告の事業においては、係争各年分の期首及び期末の各たな卸に大差はないと認められるので、別表第四の係争各年分の仕入金額をもつて当該各年分の売上原価とした。

(三) 算出所得金額

係争各年分の算出所得金額は、前記(一)の売上金額に、同業者四名の所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた金額の売上金額に対する割合)の平均値(以下「同業者所得率」という。)を乗じて算定したもので、その金額は、

昭和五二年分 二六一万五八一九円

昭和五三年分 二四六万二四八八円

昭和五四年分 三五三万〇三五〇円

であり、その計算は別表第五のとおりである。

(四) 特別経費

係争各年分の特別経費の金額は、

昭和五二年分 四万一八五七円

昭和五三年分 六万三八一三円

昭和五四年分 五万九六六六円

であり、いずれも原告の、借入金利子であつて、その内訳は次のとおりである。

昭和五二年分 京都中央信用金庫九条支店 五四〇七円

国民金融公庫京都支店 三万六四五〇円

昭和五三年分 京都中央信用金庫九条支店 二万〇〇七三円

国民金融公庫京都支店 四万三七四〇円

昭和五四年分 京都中央信用金庫九条支店 五万二一〇六円

国民金融公庫京都支店 七五六〇円

3 推計の合理性について

被告は、原告の係争各年分の売上(収入)金額及び算出所得金額を算定するに当たり用いた同業者の選定の経緯及びその適用による推計が合理的であることを次のとおり主張する。

(一) 被告は、原告の所轄税務署である下京税務署及び京都市内を管轄する各税務署の管内において原告と業種を同じくする同業者のうちから、所得税の確定申告書を提出している個人で、係争各年分を通じて次のいずれの基準にも該当する者をすべて選定した。

(1) プロパンガスを主体とする燃料小売業を営んでいること。

(2) 前記(1)以外の業種を兼業していないこと。

(3) 青色申告書を提出していること。

(4) 売上原価の金額が、三〇〇万円から一七〇〇万円までであること。

なお、右基準の売上原価の金額の範囲は、被告主張の原告の売上原価の金額を基準として、上限を昭和五四年分の売上原価の二〇〇パーセントとし、下限を昭和五三年分の売上原価の金額の五〇パーセントとした(一〇〇万円未満の端数については上限は切り上げ、下限は切り捨てた。)。

(5) 年間を通じて事業を営んでいること。

(6) 不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

(二) 右(一)の選定基準は、原告の事業内容に基づき設定されたものであり、当該基準により選定された同業者は、原告と業種及び事業規模が類似している。

また、右同業者の抽出は、大阪国税局長の通達に基づいて機械的になされたものでり、その抽出に当つて恣意の介入する余地はない。

(三) 原告の所得金額を推計するに当たり、被告が適用した同業者は、前記(一)の基準に基づいて抽出された各同業者が所轄税務署長に提出した青色申告決算書に記載されている金額(ただし、調査を行つた者については、調査後の金額)によつて算定されたものであり、その算定の基礎となる資料はすべて正確なものである。

(四) したがつて、被告が、右により選定された同業者の売上原価率及び所得率の平均値を用いて原告の係争各年分の売上(収入)金額及び算出所得金額を推計したことは、合理的である。

4 よつて、本件各更正は適法である。

(予備的主張)

仮に、原告の仕入額を基に同業者率を用いて推計した計算による原告の所得金額の主張が認められないとしても、原告提出の販売台帳を基礎にして原告の本件係争各年分の事業所得金額を算定すると、次のとおりであるから、その範囲内の金額で被告がした本件各更正及び各決定は、いずれも適法である。

昭和五二年分 二七二万三二六五円

昭和五三年分 二七〇万三〇八八円

昭和五四年分 三〇〇万七二一四円

右被告主張金額の計算根拠は、以下に述べるとおりである。

(一) 収入金額 昭和五二年分 一〇七〇万八二五八円

昭和五三年分 九五八万八五一八円

昭和五四年分 一二九六万七一六二円

その明細は、別表第九ないし第一五のとおりである。

なお、右算定方法は次のとおりである。

(1) 係争各年分におけるプロパンガスの売上金額については、係争各年分の販売台帳を基礎にして、係争各年分のプロパンガス一キログラム当たりの平均売上単価を求め、それにプロパンガスの仕入数量(キログラム)を乗じて算定した。

なお、販売台帳において、プロパンガスの売上数量が立方メートル単位となつているものについては、プロパンガス〇・四八二立方メートルでもつて一キログラムとして換算した(昭和四九年資源エネルギー庁長官第一六七九四号通達「一般消費者等に販売される液化石油ガスの標準価格の改訂及び指導について」のうちブロツク別基準産気率表による)。

(2) 昭和五三年分及び同五四年分の灯油売上金額については、当該各年分の販売台帳を基礎にして、当該各年分の灯油一リツトル当たりの平均売上単価を求め、それに灯油の仕入数量(リツトル)を乗じて算定した(別表第一二)。

(3) 昭和五三年分及び同五四年分のプロパンガス・灯油以外の売上金額については、売上原価を次に述べる売上原価率で除して算定した(別表第一三)

なお、右売上原価率は、設置に際し工事を伴うものも多くあり、少なくとも売上に対し二割以上の差益を得ていると思われるので、八〇パーセントとした。

(4) 昭和五二年分のプロパンガス以外の売上金額については、同年の灯油の仕入数量及び仕入金額不明のため、前記(一)の(2)及び(3)の方法では算定できないので、次の方法により算定した。

原告の昭和五三年分のプロパンガス以外の売上金額(灯油売上金額及びプロパンガス・灯油以外の売上金額の合計金額)に対する同売上原価の割合でもつて昭和五二年分のプロパンガス以外の売上原価を除して、昭和五二年分のプロパンガス以外の売上金額を算定した。

(二) 売上原価 昭和五二年分 六五五万九六二九円

昭和五三年分 五六三万五五一七円

昭和五四年分 八一四万〇六三八円

その明細は、別表第一六のとおりである。

なお、原告の本件係争各年分における実地たな卸しの状況は不明であるので、被告は係争各年分の期首、期末ともそれぞれのたな卸高(たな卸金額及びたな卸数量)を同額と認定し、本件係争各年分とも、仕入金額を売上原価とした。

また、被告が主張する売上原価は、仕入金額から仕入値引を除いた金額である。

(三) 一般経費 昭和五二年分 一三八万三五〇七円

昭和五三年分 一一八万六一〇〇円

昭和五四年分 一七五万九六四四円

右は、前記(一)の原告の本件係争各年分における収入金額に、前記主位的主張の2項で主張した同業者四名の一般経費率(一般経費の売上金額に対する割合)の平均値(以下「同業者一般経費率」という。)を乗じて算定した金額で、その明細は、別表第一七のとおりである。

(四) 特別経費 昭和五二年分 四万一八五七円

昭和五三年分 六万三八一三円

昭和五四年分 五万九六六六円

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

(認否)

1 被告の主位的主張1項の事実中、被告の部下職員が原告の本件係争各年分の所得税調査のため原告の事業所に臨場したことは認め、原告が右職員に対し、原始記録を一切提示しなかつたことは否認する。

2 同2項冒頭の事実中、被告主張の原告の本件係争各年分の事業所得金額は否認する。

同項(一)の被告主張の売上金額は否認し、売上原価率は争う。

同項(二)の売上原価のうち、別表第四の原告の仕入先が同表記載の三社であること、仕入先のうち、ユマツ商事株式会社、京都マルヰ株式会社からの各仕入金額は認めるが、岩谷産業株式会社からの仕入金額については、昭和五二年分については認めるが、同五三年及び五四年分については否認する。同会社からの仕入金額は、昭和五三年分は、三六七万三六五〇円、昭和五四年分は、四八七万一八〇〇円である。

同項(三)は争う。

同項(四)の特別経費の額は認める。

3 同3項の主張は争う。

4 被告の予備的主張事実のうち、原告の本件係争各年分の収入金額、売上原価、一般経費並びに事業所得金額は否認し、給与所得金額、特別経費は認める。

(被告の主位的主張に対する反論)

1 推計の必要性について

被告の部下職員が原告の本件係争各年分の所得調査をした際、原告は、販売台帳(甲第一ないし第七二二号証、但し同第四五七ないし第四六五号証は欠番)を提示しており、販売台帳には、原告のプロパンガスの販売先、販売年月日、発送容器、帰着容器、質量、残量、売上金額、受入金額の各記載欄があり、これに記入がなされているから、右記載によつて、原告の本件係争各年分のプロパンガスの売上金額を実額で計算し得た。

したがつて、右各年分のプロパンガスの売上金額につき推計の必要性はない。

2 原告の本件係争各年分の売上金額中、プロパンガスの売上金額は、次のとおりであり、その明細は別表第二五記載のとおりであつて、原告は前記販売台帳に基づき実額主張する。

昭和五二年分 六六七万九六七九円

同 五三年分 六六六万一六五七円

同 五四年分 八四五万一七五一円

五  原告の反論に対する認否及び被告の再反論

(認否)

1 原告の反論1項の事実は否認し、原告のプロパンガスの売上金額を実額計算し得たとの主張は争う。

2 同2項の売上金額は争う。

(再反論)

1 原告主張の販売台帳は、複式簿記や簡易帳簿以外の帳簿記録であり、会計記録の正確性を担保する内部牽制制度も自己検証手段も存しないものであり、販売台帳をもつて実額計算が可能であるとはいえない。

2 原告は、プロパンガスの売上金額とプロパンガス仕入れとの対応関係を明らかにしていないほか、プロパンガス以外の売上金額を主張していない。したがつて、実額計算ができないことは明らかである。

第三証拠

証拠の関係は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  課税の経緯

請求原因1の事実(本件各更正の経緯等)は、当事者間に争いがない。

二  調査手続

原告は、本件各更正は、調査理由の開示を行わず、違法な調査に基づきなされたものであるから違法である旨主張するので、この点を判断する。

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一ないし第七二二号証(但し、同第四五七ないし第四六五号証は欠番)、証人太田満の証言、原告本人尋問の結果(但し、後記各採用しない部分を除く。)によると、次の事実が認められ、この認定に反する右証人及び原告本人の各供述部分は採用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

1  被告の部下職員である太田係官は、昭和五五年八月七日から同五六年二月までの間、一四、五回にわたり原告の事業所に臨場し、そのうち八、九回原告に面接したが、最初に原告に面接した昭和五五年八月一一日、原告に対し、原告の本件係争各年分の所得金額の確認調査に来た旨を告げて、原告の事業内容、帳簿の有無を尋ね、調査に協力するよう求めたところ、原告は、プロパンガスの販売をしている旨答えたものの、右係官の尋ねた仕入先については答えず、また同係官の求めにより、プロパンガスの販売先、販売年月日、発送容器、帰着容器、質量、残量、売上金額、受入金額等の記載された販売台帳を出したが、販売先の指名は見せず、かつ同係官がその集計をしたいと申し入れたのに対し、時間がかかるから付き合つていられないし、預けるわけにもいかないと言つて、頁を開いて見せただけでこれに応じなかつた。

2  次に、太田係官は、事前に電話連絡したうえで同年八月二八日、原告の事業所に赴き、前同様仕入先の開示、帳簿書類の提示を求めたが、民商の事務局員が来て調査理由の開示を求め、同係官において、原告に対し、第三者の立会いは認められないと述べ、調査に協力を申し入れたが、原告は、帳簿の記載を全て認めるなら帳簿を提示するなどと述べてこれに応じなかつたため、同係官は、やむなく、反面調査させてもらう旨述べて同日は辞去した。

3  その後、太田係官は、同年九月及び一〇月に二、三度右事業所へ臨場して、原告に対し帳簿の提示、調査の協力を求めたが、原告がこれに応じなかつたため、反面調査をして原告の売上金額を推計し、同年一一月右事業所へ行つて、原告に対し、右推計したところを説明したところ原告は、右推計による売上金額は高すぎる、原告には業務用の販売がある旨述べて、販売台帳の一部を、仕入先の氏名を伏せて示しただけで、同日右係官が原告の事業場にあつた灯油用ポリタンクを見て灯油の仕入先を尋ねたのに対しても、これに答えようとしなかつた。

4  太田係官は、その後も数回原告の事業所を訪れて、前同様、帳簿の提示、調査の協力を求めたが、原告はれに応じなかつた。

5  そこで、被告はやむなく、原告の取引先に対する反面調査の結果に基づいて、推計により本件各更正を行つた。

右認定事実によると、太田係官は、昭和五五年八月一一日の第一回面接期日において一応の調査理由を開示したものであつて、これ以上の具体的、個別的な理由の開示は要求されていないものと解されるし、また、同係官の行つた調査に何ら違法は認められないから、原告の前記主張は理由がない。

三  被告の主位的主張について

1  推計課税の必要性

本件訴訟において、原告から前掲販売台帳が提出されており、原告は、これによつて本件係争各年分のプロパンガスの売上金額は実額計算することが可能である旨主張しているので、推計課税の必要性について検討する。

右販売台帳の記載事項は前記二で認定したとおりであるが、原告本人尋問の結果によると、原告の事業で取扱う商品のうち、プロパンガスとそれ以外の灯油、ガス器具等の商品との割合はほぼ六五パーセント対三五パーセントであること、原告の事業においては、プロパンガスは岩谷産業株式会社のみから仕入れていること、原告の扱う商品については、係争各年分の期首及び期末の各たな卸し高に大差がないこと、以上の事実が認められるところ、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし三、前掲甲第一ないし第七二二号証(但し、同第四五七ないし第四六五号証は欠番)によると、原告の本件係争各年分の岩谷産業株式会社からのプロパンガスの仕入数量、別表第一一のイ記載のとおりであるのに、右販売台帳には、同売上数量としては、昭和五二年分につき五一八一・一キログラム、同五三年分につき一八七五・一キログラム、同五四年分つきに一九九五キログラムもそれぞれ、かなり少なく記載されていること(但し、販売台帳において、プロパンガスの売上数量が立方メートルとなつているものについては、プロパンガス〇・四八二立方メートルで一キログラムとして換算(成立に争いのない乙第一六号証)した。)、また、右会社からリベート収入があつたのに、右販売台帳にはこれが一切記載されていないこと、原告は、灯油についてはユマツ商事株式会社(旧田中商店)から仕入れていたものであるが、昭和五三年分及び同五四年分の灯油の仕入数量は別表第一二の1記載のとおりであるのに、右各年分の右販売台帳記載の灯油の売上数量は、同表の2記載のとおりであつて、後者は各年ともわずか六分の一程度にすぎないことが認められ、これと本件において、右販売台帳の記載内容に記載洩れや記載誤りがないことを検証、確認する現金出納帳その他の帳簿類の提出は一切なされていないことなどに照らすと、右販売台帳は、その記載内容が正確なものとして措信することはできない。

そして、右判示したところ前記二の認定事実とによれば、原告の本件各係争年分の所得金額については、これを実額で算定するのに必要な帳簿書類ないし原始記録が提示されず、太田係官のした調査についても原告の協力が得られなかつたものであり、本件訴訟においても、他に原告の所得、より正確には事業所得を直接認定する証拠は存しないから、被告が原告の取引先等の反面調査によつて把握した結果を基礎に原告の本件係争各年分の所得金額を推計の方法により算定することに違法はない。

2  所得の算定

(一)  給与所得

原告の本件係争各年分の給与所得金額が、

昭和五二年分 一一万三四〇〇円

同 五三年分 一一万三四〇〇円

同 五四年分 一〇万七四〇〇円

であることは、当事者間に争いがない。

(二)  事業所得

(1) 売上原価

被告主張の原告の本件係争各年分の仕入金額のうち、右各年分のユマツ商事株式会社、京都マルヰ株式会社からの仕入金額並びに昭和五二年分の岩谷産業株式会社からの仕入金額は、当事者間に争いがなく、証人池田文生の証言により成立の真正を認める乙第九号証の一、二によると、原告の昭和五三年分及び同五四年分の岩谷産業株式会社からの仕入金額は、被告主張の別表第四の同会社欄記載のとおりであることが認められ、そうすると、原告の係争各年分の仕入金額は、同表の合計欄記載のとおりとなる。

そして、原告の事業においては、係争各年分の期首及び期末の各たな卸しに大差はないことは前記認定したとおりであるから、右各金額をもつて係争各年分の売上原価と認めるのが相当である。

(2) 売上金額

一定の事業を営む者の売上金額及び算出所得金額を実額によつて把握できない場合において、同種経費を支出するのを通常とする同業者の売上原価率(売上原価の売上金額に対する割合)及び所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた金額の売上金額に対する割合)の平均値を用いてその売上金額及び算出所得金額を推計することは、合理性があるというべきである。

そこで、本件についてこれをみるに、証人池田文生の証言により真正に成立したと認められる乙第二ないし第八号証の各一、二、同証言によると、被告は、本件係争各年ごとに、原告の所轄税務署である下京税務署及び京都市内を管轄する各税務署の管内において、原告と業種を同じくする同業者のうちから、所得税の青色確定申告書を提出している個人で、係争各年分を通じて被告主張の基準(被告の主張3項(一)記載)のいずれにも該当する者すべて(四件)を正確に選定したこと、右選定された同業者は、原告と事業規模も類似していること、右同業者について係争各年の確定申告にかかる売上金額、売上原価及び算出所得金額を調査し、これにより各年の平均売上原価率及び平均所得率を求めた結果は、別表第六、第七、第八記載のとおりであることが認められる。

右認定事実によれば、被告の選定した右同業者は、原告と同様京都市内に事業所を有する業種、規模の類似した同業者であり、同業者の選定基準にも合理性があり、その選定作業は正確であつてこれにつき被告の恣意の介在は認められず、かつ被告の調査は青色申告書に基づくものであり、選定数も同業者の個別性を平均化するに足りるものといえるから、右により選定された同業者の平均売上原価率及び平均所得率を用いて原告の本件係争各年分の売上金額及び算出所得金額を推計することは合理的というべきである。

そこで、前記各年分の仕入金額に同業者の平均売上原価率をそれぞれ乗ずると、原告の係争各年分の売上金額は別表第三記載のとおり

昭和五二年分 一〇五四万三四〇七円

同 五三年分 九二四万〇一〇八円

同 五四年分 一三五〇万〇三八四円

となる。

(3) 算出所得全額

本件係争各年分の売上金額に、前(2)で認定した同業者の平均所得率をそれぞれ乗ずると、原告の各年分の算出所得率は、別表第五記載のとおり

昭和五二年分 二六一万五八一九円

同 五三年分 二四六万二四八八円

同 五四年分 三五三万〇三五〇円

となる。

(三)  特別経費

原告の本件係争各年分の特別経費は、京都中央信用金庫九条支店に対する借入金利子

昭和五二年分 五四〇七円

同 五三年分 二万〇〇七三円

同 五四年分 五万二一〇六円

及び国民金融公庫に対する支払利息

昭和五二年分 三万六四五〇円

同 五三年分 四万三七四〇円

同 五四年分 七五六〇円

であることは、当事者間に争いがない。

(四)  総所得金額

そこで、右各年とも、前記算出所得金額から前記(三)の特別経費を控除し、前記(一)の各年分の給与所得金額を加えると、原告の各年分の総所得金額は、

昭和五二年分 二六八万七三六二円

同 五三年分 二五一万二〇七五円

同 五四年分 三五七万八〇八四円

となる。

四  以上によれば、本件各更正は、適法な調査に基づきなされ、また、原告の所得の範囲内でなされたものであるから適法である。

よつて、原告の本件各請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 武田多喜子 裁判官長久尚善は、転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 井関正裕)

別表第一 課税処分の経過

〈省略〉

別表第二 係争各年分の事業所得金額の計算

〈省略〉

別表第三 係争各年分の売上金額の計算

〈省略〉

別表第四 係争各年分の売上原価の明細

〈省略〉

別表第五 係争各年分の算出所得金額の計算

〈省略〉

別表第六 昭和52年分同業者率の算定について

〈省略〉

別表第七 昭和53年分同業者率の算定について

〈省略〉

別表第八 昭和54年分同業者率の算定について

〈省略〉

別表第九 係争各年分の所得金額の計算

〈省略〉

(注1) 算定方法 昭和52年分は別表第一四のとおり

別表第一〇 係争各年分のプロパンガス売上(収入)金額の明細

〈省略〉

別表第一一 係争各年分のプロパンガス売上推定額の計算明細

〈省略〉

別表第一二 昭和53年分及び同54年分の燈油売上推定金額の計算明細

〈省略〉

別表第一三 昭和53年分及び同54年分のプロパンガス・燈油以外の売上推定額の計算明細

〈省略〉

別表第一四 昭和52年分のプロパンガス以外の売上推定金額の計算明細

〈省略〉

別表第一五 昭和53年分のプロパンガス以上の売上原価率の計算

〈省略〉

別表第一六 係争各年分の仕入金額の明細

〈省略〉

別表第二三 販売台帳に記載のプロパンガス売上金額及び販売数量集計総括表

〈省略〉

別表第二二 原告とユマツ商事(株)(旧田中商店)との取引内容

〈省略〉

別表第二一 原告と岩谷産業(株)との取引内容 昭和54年分

〈省略〉

(注) 6欄の耐圧検査料は一般経費である。したがって、同業者一般経費率の中に含まれている。

別表第二〇 原告と岩谷産業(株)との取引内容 昭和53年分

〈省略〉

(注) 6欄の耐圧検査料は一般経費である。したがって、同業者一般経費率の中に含まれている。

別表第一九 原告と岩谷産業(株)との取引内容 昭和52年分

〈省略〉

(注) 6欄の耐圧検査料は一般経費であり、したがって同業者一般経費率の中に含まれている。

別表第一八 係争各年分の同業者率一覧表

〈省略〉

別表第一七 係争各年分の一般経費の計算

〈省略〉

別表第二四 販売台帳に記載の燈油売上金額及び販売数量集計総括表

〈省略〉

別表第二五(1)

〈省略〉

別表第二五(2)

〈省略〉

別表第二五(3)

〈省略〉

別表第二五(4)

〈省略〉

別表第二五(5)

〈省略〉

別表第二五(6)

〈省略〉

別表第二五表(7)

〈省略〉

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